お迎えに来ましたーと看護師さんがにこやかに現れた。
「うわー、来たー!」と思わず云ってしまう。
手術室までは自力で歩いていく。
点滴を吊るしたのをガラガラを押しつつ、看護師さんと夫と手術室のフロアへ移動する。
ドアの手前で最終確認で、アクセサリーやブラジャー、コンタクトなどの装着品がないかどうかを見る。
夫とはここでお別れ「頑張ってねー」「また後でねー」。
多分、夫の方が心細い気持ちになったのかもしれないと想像してみる。
ドアのすぐ向こうには受付があり、私の名前を告げられる。
さらにドアを抜けて、ベンチなどがある待合室。
「ちょっと早く来ちゃったわね、ごめんなさいね。エレベーターが混むことがあるので、少しだけ早めに出発しちゃうの。手術は始まり時間厳しいから、遅れるのはいけないので。でも今日はスムーズだったわね」
いえいえ、私もバタバタするよりこの方がいい。
待ってる間に、昨日から病院の人たちのお仕事がどんなに人の役にたちまくっているかを目の当たりにして感動しているという話をした。
いえいえ、そんな、みたいなやり取りをしながら、なんだか泣きたくなるような気持ちに。
きっとなんだか神経がものすごく高ぶっているようだった。
やがて、担当の先生たちが集まってくる。
昨晩顔を出した先生とは違う麻酔先生が「担当変わりました」とあいさつに来た。
黒縁メガネのきりっとした若い先生。
私は二つに結んだ髪を渡されたガーゼのシャワーキャップのようなものを被る。
いよいよ感が漂うではないか。
手術担当の看護師さんにバトンタッチして、連れられて歩いて、いくつか並んだうちのひとつの手術室に入る。
めちゃくちゃ可愛い看護師さんで、なんと癒されることか。
とても緊張している旨を告げると、「そうですよね、でも大丈夫ですよ」と背中に手を当ててくれた。こういう何気ないのがホッとする。
広い部屋の中央にベッドがあり、ライトみたいなのがいくつかベッドを狙っている感じ。
ドラマで私がみて認識したようなのじゃない感じだったなあ。
ベッドに上がるは2段の階段があり、靴のまま上がる。
まず腰かけてネグリジェのボタンをすべて外し横たわるタイミングでそれが外され、ピンクのバスタオルが掛けられる。
看護師さんに向かって体を丸める。
昨日映像で見た硬膜外麻酔のお時間だ。
膝を抱えるようにして、おへそを見るようにしてぐぐっと体を丸める。
ベッドが狭いが、看護師さんが支えてくれるので安心してと云われる。
背中の広い範囲にアルコール消毒を数度塗布される。
どうも、若い先生にベテランの先生が指導している雰囲気が背中で判る。
若い先生、頑張ってー本当におねがい。
そして何度か腰骨と、背骨を探って数を確認する行為が何度もあったので、ベテランと若い先生が繰り返して確認していたのではと思う。
頼むー。
アルコール消毒を広範囲に何度かした後に、穴が開いたビニールシートをかぶせられる。
最初はちくっと2回くらい。
これが効いてくるの?と思いきや、何かもっと大きな痛みがあって、思わず身体がびくっとのけぞる。
「ん、痛いですね、もう一本打とう」ということでもう一回ちくっと。
その次のは感覚が鈍くなって、大丈夫だった。
例のチューブ状のものが差し込まれたのかなあ。
仰向けフェーズ。
もうジェットコースターに乗せられた気分だ。
嫌だと云ってももう絶対に帰れない。というか、早く済ませてしまいたい。
両手をベッド脇に飛び出た台に固定される。
ずり落ち防止のため、白い布で結びつけられるのだ。足もね。
血圧を測るのがつけられ、測定される。指先には脈拍図るやつがつけられる。
酸素マスクが口にあてがわれる。
黒縁メガネの先生がさっきの教えられている若い先生なのかな。
微妙に鼻の軟骨との境目の固い処に当たるのが不快で、でもなんだかだんだん声も出せなくて何も云えない。
だから、自分で微妙に顔を動かしてよけるんだけど、なんだか痛いぞ。
(結果から云うと、術後なんで鼻が痛いのかしばらく判らなかったけど、これだ!と思いだした。しかも術後3日目も、押さえるとなんだか痛い。とほほ)
手や足の指が、落ち着かないためになんとなくジタバタしていた。
すると、看護師さんが右の手をそっと押さえてくれた。
人の手ってこんなにやさしいものなんだなあと嬉しくなった。
ちょっと前から、執刀関連のチームが集まって色々な準備をしている雰囲気。
全体的に若い人が多いせいか、妙に和やかと云うか、部活の前みたいな、「いっちょ今日も切りますかー」みたいなノリのようで、かえって安心だった。
初めて路上教習です...みたいなびくびくした人たちには切ってほしくない。
この雰囲気が安心感につながりつつ、急に何か猛烈な意識不明な空気に包まれる...
これが麻酔ってやつ...って思いながら。
多分10も数えてない、5までいったかどうか。
ぐーっと意識が遠のき、何か深い処へ沈み込んでいくような感覚だった。
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